XP祭り2021に参加して、以下のセッションが面白そうだったので聞いた
ペア/モブで行われる人間の理解について 建設的相互作用の論文 (通称「ボビンの論文」) を読みながら考える
「ボビンの論文」とは1986年に三宅なほみ先生が発表した"Constructive interaction and the Iterative Process of Understanding"という博士論文のことで、ペア作業の観察を通じて理解というものはなにか?複雑な問題をペア作業によってどのように進めていくのか?に迫った論文
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1207/s15516709cog1002_2
偶然にもスクラムの源流である80年代の製造業のプロダクト開発を観察した論文 "The New New Product Development Game" と同年に発表されたもので、異なるアプローチで人間の協調作業に迫っているということで興味深い論文とのこと
セッションの内容は、その「ボビンの論文」を機械翻訳をかけながら読むことを通じて、理解とは何か、ペア作業の効果に関する新しい視点を得ようというもの
論文の概要
論文では「建設的相互作用」と呼ばれる実験手法と、「理解のプロセス」の2つを検討している
検討の方法としては3組のペアにミシンのメカニズムを協力して探求してもらい、その探求中の会話をビデオに撮って記録するというもの
観察の結果、それぞれのペアがミシンのメカニズムを「理解した」と宣言しても、ミシンに関する質問をしたときに、その理解が不完全で新たな理解が必要となるということが多かった
いくつかの難易度が段階的な質問に対して、この「理解した」と「理解していない」の循環が観察できた
これらの詳細な話と結果について考察している
面白かった点
①この論文の手法にあるペアの会話をビデオで撮って記録するということの効果について
- 従来のような後々の口頭報告では沈黙する被験者にむりやり回答させるような問題があったが、二人の人間が会話をすることでこの問題を回避することができた
- 二人の人間が会話をすることで、自分が考えていたことだけでなく、なぜそう考えたのかを自然に説明するようになるのが観察された
- そして、このことが普段は見えないプロセスを可視化することになった
- 具体的には、一人で作業している被験者がある問題を解決したと主張しても、それを検証するための反例を考えるのは難しいが、2人だと自然に反例が発生した
ペアの作業効果は、お互いが理解しているかのチェックを自然にチェックし合える「建設的相互作用」効果があるというを実験結果として語られていて面白かった
②理解のプロセスについて
- 人の理解度にはレベルがあり、「理解した」と「理解していない」を繰り返している
- 「特定」「提案」「確認」のステップを踏んでいるとき、その現象を理解していると思っている
- 「探索」「批判」「疑問」のステップを踏んでいるとき「わからない」と感じ、次のレベルの理解への「特定」「提案」「確認」のステップに進む
こんな感じ
Lv0: 「特定」→「提案」→「確認」
↓質問される
Lv1: 「探索」→「批判」→「疑問」→「特定」→「提案」→「確認」
↓質問される
Lv2: 「探索」→「批判」→「疑問」→「特定」→「提案」→「確認」
↓質問される
Lv...
これはとても共感した
おそらく、「完全に理解した」というあのダニング=クルーガー効果は、あるレベルの「特定」「提案」「確認」のステップを踏んでいるときなんだろうなと思った
そして、「チョットできる」というのは、こういう段階的な理解度のレベルが延々とあることがわかってきた人たちが、きっとまだ理解してないんだろうなーという意味を込めて言っている気がする
人に「提案」しているときには得意げにならない方が身のためだと感じ、人に「確認」するステップを踏まなければ次の理解に進めないんだと感じた